現在、企画展「漆戸茂樹没後150年 SHIGEKI -盛岡藩沿岸を測量した男-」を開催しています。新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、会期中に臨時休館し皆様には大変ご不便をお掛けしました。また、すべての関連イベントが中止となり、楽しみにされていた皆様には大変申し訳ありませんでした。遅ればせながら、企画展のおすすめ資料をご紹介いたしますので、企画展の雰囲気を少しでもお楽しみください。

 

今回の主役はSHIGEKI=漆戸茂樹(1790~1870)という一人の盛岡藩士です。歴代の盛岡藩主でも、楢山佐渡のような家老でもありません。盛岡藩主や家老を支え、領内を奔走し、藩の政務をおこなった名もなき実務官吏の一人です。彼が携わった藩の仕事に関する資料や彼の著書などから、盛岡藩士の生き方や彼が生きた江戸時代末期の盛岡藩の様子を感じてもらう展示となっています。

茂樹が携わった藩の仕事に江戸幕府へ「海岸絵図」を提出したことあります。江戸時代末期、通商や補給港の開港を求める外国船が日本沿海に頻繁に見られるようになり、嘉永2年(1849)、江戸幕府は諸大名に海岸線の距離、各湊の水深など記した海岸絵図などの提出を命じました。盛岡藩は、嘉永4年(1851)に藩役人を派遣して沿岸測量を行い、海岸絵図を作成しました。それを主導したのが茂樹で、江戸幕府に提出した絵図「陸奥国盛岡領海岸絵図面控」(あの赤いポスターに使われた絵図です)が当館に残されています。

漆戸茂樹と田鎖良右衛門をリーダーとして2班に分かれ、下北半島沿岸と三閉伊沿岸をそれぞれ約4ヶ月かけて測量しました。新幹線や自動車のない時代に、すべて歩いて測量したと思われます(馬ぐらい使ったかもしれませんが)。この絵図は、日本地図を作ったことで知られるあの伊能忠敬が制作した絵図と遜色ないほど正確に描かれています。茂樹ら盛岡藩士は確かな測量・作図の技術を持っていたことに驚かされます。現在の地形図と比べてもほとんど差はないです。

もう少し、この絵図を詳しく見ていきましょう。

 

宮古部分拡大

水深は6地点(30間目・1丁目・5丁目・10丁目・20丁目・30丁目)を測りました。

ちなみに、宮古湊の水深は…

海岸からの距離

30間目

→約54m

1丁目

→約109m

5丁目

→約545m

10丁目

→約1090m

20丁目

→約2180m

30丁目

→約3270m

水深

2尋程

→約3.6m

3尋程

→約5.4m

7尋程

→約12.6m

15尋程

→約51.0m

16尋程

→約52.8m

18尋程

→約56.4m

海岸から沖合約1㎞付近で急に深くなるので気を付けましょう。

 

海岸線の距離は、村と村の間の距離が記されています。宮古湊周辺は…

  (津軽石村より)宮古村へ (宮古よろ)崎山村へ (崎山村より)多老村へ
内陸の距離 1里(3.9㎞) 1里30丁(約7.2㎞)
海外線の距離 1里14丁48間(約5.5㎞) 2里33丁38間(約10.5㎞) 3里14丁30間(約13.3㎞)

さすが、リアス式海岸‼ 内陸の道の距離と海岸線の距離の差よ、約2倍近くもある。

ここで、ちょっと江戸時代の単位のお勉強です。

長さの単位

・距離の単位  1里=36町≒約3900m  1町(丁)=60間≒約109m 1間≒約1.8m

・水深などの単位  1尋≒約1.36mまたは約1.8m(ここでは約1.8mで計算しました)

長さの単位と言っても測るものによって、単位の使い分けがされています。

 

ところで、なぜ幕府は沿岸の水深を絵図に記入させたのでしょうか。

和船は、舵や帆柱は取り外すことができ、船底は平らにするなど浅い岸にできるだけ近づけるように作られているため、水深はそれほど必要な情報ではありませんでした。しかし、蒸気船などの大型船は水深が深くなるため、浅い岸では船底が海底につかえてしまい、乗り揚げ事故を起こすことになります。水深は、大型船の航行のために必要な情報だったのです。

また、小さな 大砲が設置されていた大砲場を表しています。

宮古の鍬ケ崎には5挺の大砲がありました。海へ向かって、「バカヤロー」と共に一発(やってはいけません)。

この絵図には、沿岸の水深や大砲場の位置など盛岡藩の軍事機密が記されていたため、長く秘蔵されていたと思われます。そのおかげで、茂樹の素晴らしい仕事をわたしたち見ることができますが。

色々と難しいことを書いてしまいましたが、あれやこれや考えず、まずはただ目の前にある絵図や空間を自由に楽しんでください。

色がきれいだなぁ。 デカい‼ この絵図はどこから描き始めたのかな?

そのなかに気になるモノがあったら、それが作成された背景や作成した人物を想像(妄想)してみてくだい。

人が作ったモノには、必ずその人らしさが表れていますから。

 

会期残り1ヶ月となりましたが、体調のよい方はぜひ企画展「漆戸茂樹没後150年 SHIGEKI -盛岡藩沿岸を測量した男-」をご覧いただければと思います。館内では、新型コロナウィルス感染症等の拡大防止のため様々な取り組みを行っております。ご来館の際は、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 

担当学芸員:小原祐子