企画展「殿さまのギフト」、いよいよ明日(6月23日)で最終日となります。

本展最後の歴文館日誌「企画展の窓から」では、殿さまの手紙をとりあげたいと思います。

盛岡藩を統治した南部家の殿さまたち。江戸時代の藩主は16人おりますが、ついつい「南部の殿さま」と一括りにしてしまいがちで、1人の人間としての姿を思い浮かべることは難しいのではないでしょうか。

そこで本展のⅣ章「家中との交流 ~贈り物からみる殿さまの人柄~」では、殿さま本人の心の内・人柄を知っていただきたく、殿さまが親しい人物に宛てた手紙などを展示しています。

※手紙の翻刻文は企画展で展示、また図録に掲載しています。今回の歴文館日誌に記載している文章は、かなり意訳しています。

4代 重信が、栗山大膳(※黒田騒動の責任を負い、盛岡藩に御預となって福岡藩の家老)の息子 雖失(大吉)に宛てた手紙には「体調は大丈夫ですか? 茶碗・茶入れ本当にありがとう!とっても気に入りました。参勤交代で江戸に行く時は一緒に持っていきます。」など、かなり親しい様子がうかがえます。

 

8代 利視が子ども達(主に三男・四男・五男)に宛てた手紙は、江戸時代後期に編さんされた「内史略」という資料にまとめられており、年代は定かではありませんが、かなり教育パパ的な側面があふれる手紙が残されています。この利視は若い頃、かなりやんちゃな逸話のある藩主なのですが、そのギャップがたまりません。

企画展では、利視が江戸から悪病に効くという桃の葉の粉薬を盛岡の家族に送り、「本来はお酒と共に飲むものですが、子どもには砂糖湯で飲ませなさい」と妻たちに宛てた内容の部分を展開しています。利視には養子を含め21人の子どもがいますが、早くに亡くなってしまった子どもが多く、どうか健やかに成長してほしいという父親の切実な願いが感じられます。

 

さて、では次の手紙をご覧ください。

<おち宛南部信直書状>慶長4年(1599)4月6日

 

これは初代盛岡藩主 南部信直(1546~1599)が「おち=(娘の千代子)」に宛てた手紙で、だいたい次のようなことが記されています。

 

「手紙を送ります。ここ十日間くらいは、少しずつ食事も摂れるようになり、体の具合も良くなってきました。

この様子なら、だんだんと体調も良くなると思うので、安心してください。

 九郎(※2代藩主 利直、信直の長男)は今日・明日中には帰ると言ってきていますが、「めかぶ」を食べたがっています。小さくても構わないのでめかぶをとって送ってください。

追伸 こちら(福岡)に何か御用がありましたら、言ってよこしてください。」

 

他にも、前年の慶長3年(1598)まで豊臣政権下の大名として伏見(京都府)に務めていた信直は、同時期に娘の千代子に自分たちの状況を知らせる意味も込めてか多くの手紙を送っています。全て展示することはできませんでしたが、以下のような手紙が残されています。※こちらもかなり意訳しています!

時系列順に追っていくと★「お土産を買って早く八戸に向かいたい」「良いものをじっくり見定めてお土産を買いますね」→2日後→「ところで孫は元気にしていますか?」→約1ヶ月後→★「孫へのお土産ですが、2月に注文したほうが良いと皆からアドバイスをもらいました」「お土産は送る予定ですが、もし私自身が帰れるなら自分で持ち帰りたいです」→約1カ月半後→「体調をくずしてしまい、今も眩暈がしますので、急いで帰ることができそうにありません」「孫へのお土産はちゃんと買ったので持ち帰ります。ご心配なく!」「本当にもう間もなく帰りますので、安心して待っていてください」

※★印の手紙は企画展で展示しています。

皆さまはこれらの手紙の内容を見てどう感じたでしょうか。私は「お父さんっ!」とちょっと泣きそうになりました。言い方が軽くて申し訳ありませんが、単身赴任中の父親が早く家族の元に帰りたがっている感じがすごい、孫のお土産は自分自身で渡したい覚悟が伝わってくる、あぁ体調くずしてしまった!とちょっと感情的になってしまいました。

そして無事に信直は福岡城(岩手県二戸市)に戻ってきたのですが、前述のとおり体調をくずしてしまっています。そのような状況でも息子の九郎(=南部利直)がメカブを食べたがっているので送ってくれないかと・・・。良いお父さんではありませんか。

一族や領地をまとめる「殿さま」ですが、当たり前のことですが、改めてひとりの「父親」なのだなぁとしみじみと感じました。

この慶長4年(1599)4月6日に「おち」に宛てた手紙の約半年後、信直は福岡城で亡くなり、その波乱の生涯に幕を下ろします。

 

企画展で展示している手紙は、内容に「贈り物」が含まれているものを今回は選びました。ですが、手紙自体が何よりの「贈り物」といえるのではないでしょうか。大切な人に手紙を送り、受け取った側がその手紙を大切に思い、だからこそ後世に残っている・・・。

メールやラインもよいですが、たまには自分の字で、心を込めて大切な相手に手紙を送るのもよいかもしれません。

 

担当学芸員:小西治子