もうすっかり秋だな…と思っていたら突然寒くなってきた最近の盛岡。
ついに最高気温が20℃を下回りはじめ、早くも冬の訪れを予感させたりさせなかったり…

そんな本日は、現在開催中も企画展「ANIMALs×morioka」とテーマ展「まぼろし動物園」の裏側をちょっとだけご紹介したいと思います。
サブタイトルを見てお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこの2つの展示はひっそりと連動企画なのです。どちらも「資料のなかの○○たち」として、歴史史料や美術工芸品に見られる生き物をご紹介していこうじゃあないかという企画。
当初の予定では企画展は「盛岡藩動物園」、テーマ展は「もののけ動物園」というタイトルの予定だったのですが、企画展は「堅苦しくておもしろくなさそう」、テーマ展は「神様とかも出てくるのにモノノケはまずいかも」ということで予定を変更したのでありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは貴重な(?)当時の年間展示計画案の一部です。

この頃は企画展では実在する動物を紹介し、テーマ展では「非実在の生き物」を紹介するというのがコンセプトだったのですが、準備中に「もののけ=非実在」という考えを改めさせられるできごとがありました。

まずひとつは、「もののけ」という言葉の語源を改めて調べたこと。
「もののけ」は「物の怪」または「物怪」と書き、「物怪」と書いた場合は「もっけ」とも読み、もともとは「思いがけない不思議なことや不吉なこと」を表す言葉。「物の怪」とした場合は悪霊や生霊、妖怪など「人に害をおよぼす人ではないモノ」を表すのだそうです。どちらも、人知の及ばない存在として不思議に思ったり恐れられたモノということでしょう。
これらのことは、「その時代の科学で存在を証明できないモノたち」が「もののけ」という名前で呼ばれたという解釈ができます。不思議なできごとの原因となるものがわからないと余計に不安だった人々は、その存在や事象に固有の名前を付け、姿と性質を与えて「ああ、これは○○というもののけの仕業だな」「○○は人を襲ったりしないから大丈夫」という安心要素を作り出した、ということなんだなと納得した次第でした。

もうひとつは、とある書籍刊行のための取材に同席させていただいたこと。
その書籍というのがは、博物学者の荒俣宏さん、古生物学者の荻野慎諧さん、小説家の峰守ひろかずさんの3人(妖怪探偵団)が東北各地に残された妖怪にまつわる資料や幽霊画、本草学や博物学関連資料などを見て、しゃべって、各地に新たな知見をもたらすとともに新たな研究の種を蒔きまくって行く紀行文『荒俣宏妖怪探偵団 ニッポン見聞録』(遅ればせながら、当館でも本日より販売開始しました!)です。こちらに、当館収蔵の「水虎之図」も取り上げていただくこととなり、資料の概要についてご説明する機会を頂戴したわけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このときに荻野さんからお話しいただいた「カッパはゴミ箱」という言葉が、テーマ展の方向性を大きく変えるきっかけでした。(私の解釈が合っていれば)現在ほど多くの動物の詳しい生態がわかっていない近世以前において、「カッパ」とは「なんだかよくわからない生き物」の代表格であり、「謎の生物を見たらカッパと思え」的なことで様々な生き物がカッパに分類していたのだろうというお話し。(自信がないので詳しくは本を読んでください)

カッパに限らず様々なモノノケたちは皆、当時知られていなかっただけ、あるいは見間違われただけの「実在する動物」である可能性は十分に秘めています。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉がありますが、正体を見たその瞬間に幽霊は姿を消し、そこには枯れたススキがあるだけの景色が残されるわけです。しかし、一度幽霊の正体が枯れ尾花だったからと言ってすべての幽霊が枯れ尾花だという証拠にはなりません。そういう意味で、妖怪やモノノケと呼ばれる存在は無限の可能性を秘めていると思うのです。

先生方のお話しを聞き、自分なりに解釈し、紆余曲折を経て、今回のテーマ展では「もののけ=非実在の生き物」のスタイルを捨て「もののけ=実在するかもしれない生き物」として紹介することになりました。さらに、この展示の裏テーマを「実在の証明不可≠非実在の証明」にすることになったのです。展示をご覧いただいた方はお気づきになったでしょうか。展示の中でモノノケを「架空の生き物」とか「実在しない」と評していないのはこのためです。

 

ふと気づけば、まだテーマ展のことしか書いていないのにずいぶん長い文章になっていました。文章をまとめるのが本っ当に下手糞。まだまだ話したいことはたくさんありますが、これ以上長くなっても本当にアレなので、企画展の話は次回(会期中に書きます)に譲ることにしたいと思います。

企画展「ANIMALs×morioka 資料のなかの動物たち」は10月9日(月・祝)まで、
テーマ展「まぼろし動物園 資料のなかのモノノケたち」は10月16日(月)まで開催中です。
会期も残りわずかです。お外は寒いですが、そこは芸術の秋、文化の秋だと思ってグッとこらえてご来館ください。お待ちしております。

 

担当学芸員:福島茜