お盆ですね。
お盆と言えば、ほぼ年中無休の地獄の釜もきれいに掃除しなきゃいけないぞ!ということで亡者たちが現世に一時帰国する、あの世の一大イベント。西洋風に言えばハロウィンですね。しかし横文字を何でも見事に日本語に置き換えてきた日本人としては、お盆を「日本のハロウィン」と呼ぶよりは、ハロウィンの方を「西洋盆」と呼びたいところであります。

さて、そんなお盆ということで今回の歴文館日誌では「企画展の窓から」を一旦お休みして、久しぶりの「ジョウセツ展の小窓」にて現在開催中のテーマ展「まぼろし動物園~資料のなかのモノノケたち~」の情報をお届けします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コントラストがキツすぎて中の様子がほとんど見えませんが、こちらの光るポスターがテーマ展示室入口の目印。今回のポスターは、なんだか妖怪的なモノの力が漲ったり漲らなかったりしそうなイメージの満月をモチーフにしています。
今回のテーマ展では、妖怪・もののけ・神仏・鬼・怨霊・お化けなどと呼ばれる、いわゆる「この世のものでない存在」をメインで取り上げています。ウォッチ的なものやゲゲゲ的なものをはじめとした「この世のものでない存在」を主役にしたり、地獄を舞台とするマンガや映画作品も作られるなど、意外とメディアへの露出も多い彼ら。本展では「この世のものでない存在」に加えて「いるかいないか証明できない存在」や「まぼろしの動物」も含め、一括して「モノノケ」と呼んでいます。
かわいいものや気持ち悪いもの、気持ち悪いけどなんだか気になるアイツ…的なモノノケの目撃談を記録した資料や、モノノケの登場する物語、ずらっと並べてご紹介しているのが、本テーマ展です。

 

さてここからは少しだけ、展示資料を通して現代に伝わるモノノケたちの姿をご紹介したいと思います。
まずはじめはこちら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは「水虎之図(すいこのず)」という、全国各地のカッパの目撃談やカッパの特徴などをまとめた巻物の一部。
見た目はわりとイメージ通りのカッパと言えるでしょうか。
文字を読んでいくと、これは現在の茨城県水戸市付近で獲れたカッパであることがわかります。なんとなく単独行動のイメージがあるカッパですが、この時は群れで行動していたそうです。この他見た目の特徴や匂いなど、実に細かいことまで記録されていてとても面白いです。
これ以外にも大男を水に引きずり込もうとして返り討ちにあったカッパの話や、カッパの見分け方と撃退法もご紹介しています。特にカッパの撃退法は、この夏水辺に行く方は万が一カッパに遭遇したときに備えてぜひ覚えておいていただきたい内容です。

とは言え、ほとんどの現代人にとってこの文字は非常に難解。そんなわけで、展示室では楷書に直したものと現代語訳も掲示してあるので気になる方はもりおか歴史文化館へ!

 

続いてはこちら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大悦物語絵巻(だいえつものがたりえまき)」という資料。
室町時代に成立した物語で、みなさんご存知「わらしべ長者」のもとになったお話しです。

「わらしべ長者」では、観音様のお告げに従ってわらしべを拾った主人公が物々交換を繰り返して裕福になり、めでたしめでたしとなりますが、実は「大悦物語」ではまだ後半のエピソードに続きます。
ご注目いただきたいのは、その後半部分の相撲のシーン。着物を脱ぎ捨てた恵比寿・大黒が相撲をとり、行司を務めているのが大悦之助です。そして、周囲を囲む観衆が恵比寿と大黒の眷属(お供)たちです。この眷属の姿が大変ユニークなのです。食物や農業の神でもある大黒天の眷属は、多産(豊穣・繁栄)の象徴であるネズミ、渡来神(海外から来る神)である恵比寿の眷属は、海産物です。海産物と言うと聞こえが悪いですが、魚のかぶり物を頭に乗せたようであったり、うなじからタコの脚が生えているなど、明らかに海の生き物に由来する姿が特徴的のキモかわいい系です。かわいい要素は薄めですが。

詳しくはぜひ、展示室で本物を見ていただきたい資料です。

 

最後はこちら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知ってる人は知っている、奇書『山海経(せんがいきょう)』です。
「世界最古の地誌」とも言われる中国の本で、成立年代は不祥ですが紀元前4世紀頃から紀元2~3世紀頃までの間に編集・改定・増補を繰り返して成立していったものと考えられています。
中国において世界の中心と考えられていた「中華」を中心として、中心部に近い順に「山経」「海内経」「海外経」「大荒経」の4種類をそれぞれ東西南北(「山経」のみ「中山経」もある)に区分けして、そこに生きる動植物やその土地を統べる神々を紹介する内容です。当初は世界の全体像を示す地図なども附属していたと考えられていますが現存せず、挿絵もすべての動物を網羅しているわけではないことや、文章と挿絵で特徴に食い違いが見られることなどから、途中で一度失われたものを後世に復元したもののようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな山海経に登場する生き物たち(人を含む)は、どれもこれも奇想天外な姿と生態を持っており、まさに「モノノケ」の名にふさわしいものばかり。本来であればすべての生き物をご紹介したいところなのですが、さすがにそれは難しかったのでイチオシの生き物たちを壁に張り出してご紹介しています。…そしたら気持ち悪い壁紙みたいになりました。
しかしながら、毎日顔を見合わせるうちに「あれ?もしかしてかわいいんじゃない?キモくないんじゃない?うん!むしろ良い!」と思い始めた担当者としては彼らを紹介せずにはいられなかったのです。誠に申し訳ありませんが、キモくて耐えられない方はテーマ展示室奥のスペースはスルーでお願いいたします。
その代わり、キモいのが平気な方にはぜひともじっくりその生態までもご堪能いただきたい資料です。下痢や悩み事に効くものや、食べると足が速くなるものまでいますし、きっとお気に入り…とまではいかずとも何だか嫌いじゃないヤツくらいは見つかるはずです。

 

そんな、キモくてかわいい、なんだか気になるあん畜生たちをご紹介するテーマ展「まぼろし動物園~資料のなかのモノノケたち~」は10月16日(月)までのロングランでお届しております。夏でも秋でも、気が向いたときにフラリとご来館いただければ幸いです。

 

担当学芸員:福島茜