本日より開催しております企画展「ANIMALs×morioka 資料のなかの動物たち」では、美術工芸品と歴史史料をとおして、人間と動物たちとの関わり方の一端をご紹介しております。

今回の「企画展の窓から」では、第1章「絵師 meets ANIMALs」の展示資料の魅力をお知らせしたいと思います。

まずやはりご注目いただきたいのは壁にずらっと並べた掛軸たち。と、その手前の絵画作品たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸時代後期のものを中心に、昭和初期までの絵画作品などを展示しており、今回一番展示数が多いのは川口月嶺の作品です。
(※月嶺については過去の投稿 https://www.morireki.jp/blog/event/1846/ をご参照ください)

第1章「絵師 meets ANIMALs」でご紹介するのはこれらの絵画作品と動物をかたどった美術工芸品を作った絵師たちの「視点」です。絵画作品を見たとき「なんでこれがこう描かれるの?」と不思議に思うことがありませんか?抽象画などを見ると特に起こりがちな現象ですが、たとえ具象画であってもままあることですね。
それもそのはず。見ているものが同じでも、見る人が変われば見るポイントや見るときの感情が違います。すると当然、見えかたが変わり、描き方が変わるのです。

ここでは、絵師や工芸作家などの表現者=アーティストたちの目に動物がどのように映ったか、そしてそれをどんな風に表現したかを、じっくり作品を見ることで感じていただければと思います。

 

せっかくなのでここでいくつかの資料をご紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは、「桜の画家」とも呼ばれた女流画家・跡見玉枝の作品です。

哀愁漂うハトの背中。かわいらしいタンポポまでなんだか儚げに見えます。これはもう、間違いなく玉枝はハト好きです。だと思います。私は。

もちろん、本人が嫌いでも仕事で描かねばならない場面もあるでしょう。しかし、ハトが嫌いな人にこの愛らしいフォルムは描けないと思いませんか?シンプルな造形から、手早く迷いのない玉枝の筆さばきが見えるようです。迷いのない筆さばきで描けるのは、普段からよく観察しているからこそです。ハト嫌いの人は普段からじっと見たりしません。

故に私はこの作品を見て、アーティスト・跡見玉枝の「視点」をこのように感じたのです。
 ・「かわいいもの」として見ている
 ・ハトの丸みのあるフォルムに愛着があるからこそあえて「後姿」を選んだ
 ・ハト好き

 

続きましてこちら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

跡見玉枝が「桜の画家」なら、こちらは「馬の彫刻家」後藤貞行の作品です。

初めに言っておきます。貞行はウマが好きです。
もともと陸軍の騎兵隊や軍馬局に勤めていた貞行は場産地として有名だった旧盛岡藩領にも仕事で何度も足を運んでおり、その後彫刻家として活躍するようになっても岩手に足を運ぶ機会は何度もあったそうです。
仕事で、そして趣味でウマを見続けた貞行は、「馬の彫刻家」の異名のとおり数々の騎馬像のウマ部分を手掛けています。有名なものでは、皇居外苑にある「楠木正成像」のウマがあります。盛岡でいうと、盛岡城の本丸跡に謎の巨大な台座があるのはご存知でしょうか?あんなに大きいのに意外と記憶にない方もいますが、あるのです。あの上には戦前まで「南部利祥中尉騎馬像」が乗っていました。そのウマも貞行の作でした。ちなみにウマ以外では、上野恩賜公園にある「西郷隆盛像」の傍らにいる愛犬「ツン」も貞行の作品です。

さて、長くなりましたが、ウマに関わる仕事を経て、ウマの彫刻を作り、ウマを描いた彫刻家・後藤貞行。ウマが嫌いなはずがありません。貞行はウマ好きです。

この作品を見て、私が感じたアーティスト・後藤貞行の「視点」はこうです。
 ・ウマは美しい
 ・ウマはたくましい
 ・ウマ好き

 

最後にご紹介したいのはこちら。

 

 

 

 

 

 

 

「雉子頭雌雄御太刀拵(きじがしらしゆうおんたちこしらえ)」または「雉子尾雌雄御太刀拵(きじおしゆうおんたちこしらえ)」と呼ばれる太刀の拵(刀身を保護するための柄や鞘などの総称)です。

これを造った人物が誰であるかは一端置いておきまして、展示室でご注目いただきたいのはその細工の細かさ、精密さです。上段がメス、下段がオスのキジをかたどった装飾を柄頭に施し、鞘は尾羽の模様を漆塗で表現しています。丁寧な観察に基づいた作品であることは言うまでもなく、その細かさたるや、本当に「すごい」の一言。ふつうの人ができる事とは思えません。変態の仕業に違いありません。

故に私はこの資料を見るたびに、これを造った職人=アーティストに思いを馳せてこう感じるのです。
 ・鋭い観察眼と高い技術を兼ね備えた職人である
 ・変態である

なお、こちらの通称「雉子頭」にはあと2点の仲間がいます。
「鷹頭御陳太刀拵(たかがしらごじんたちこしらえ)」と「鳳凰御陳太刀拵(ほうおうごじんたちこしらえ)」。いずれも花巻市博物館所蔵ですので、普段は当館でお見せすることはできません。

しかし本企画展では、花巻市博物館さんからこの2点をお借りすることができました!
よって、展示室では4点の「鳥頭太刀」を並べてご覧いただくことができます!貴重な機会です!
なお、借用資料ですので写真の公開は差し控えさせていただきます。気になる方は今すぐ展示室へGO!

 

 

長々とご紹介いたしましたとおり、特に美術工芸品の場合、作品を見て「こう感じなければならない」「こう見るのが正解」などということは決してありません。鑑賞の仕方は自由なのです。私は常にそう思って好き勝手に見ています(もちろんとても真面目に見ることもあります)。
ですので、ご来館の際にはぜひ、ご自身が興味をひかれた作品とじっくり向かい合って、作者がなにを考えていたのか、あるいはどんな人だったのかに思いをはせてみてください。きっとお気に入りの作品が見つかります。

 

もりおか歴史文化館の企画展「ANIMALs×morioka 資料のなかの動物たち」は10月9日(月・祝)まで開催します。
会場内では、ここまでご紹介した資料を合せて101点の資料が、表された動物たちとともに皆さまのご来館をお待ちしております。夏休みの思い出に、ぜひご家族おそろいで会話を楽しみながらのびのびご覧いただければ幸いです。

 

担当学芸員:福島茜