「南部盛岡は日本一美しい国でござんす。西に岩手山がそびえ、東には早池峰。北には姫神山。城下を流れる中津川は北上川に合わさって豊かな流れになり申す。」

 

 直木賞作家浅田次郎氏の小説『壬生義士伝』(文藝春秋、2000)の中で、貧しさゆえに脱藩し、新選組隊士となった主人公吉村貫一郎が故郷の盛岡と残してきた妻子を想って仲間の隊士たちに語る言葉です。

 慶長3年(1598年)(慶長2年説もあり)南部家26代南部信直(盛岡藩初代藩主)が、不来方(こずかた)と呼ばれていたこの地に居城を定め、築城を開始しました。信直の死後は、嫡子の2代藩主利直に引き継がれ、3代藩主重直の代に一応の完成をみました。以後、明治元年(1868)まで、歴代藩主の居城として存続し、盛岡は、南部氏盛岡藩の城下町として、その歴史と文化を育んできました。もりおか歴史文化館は、この国指定史跡盛岡城跡に隣接して立地しております。

 もりおか歴史文化館の収蔵資料約6万点のうち、約4万点が南部家ゆかりの品々です。歴代藩主や女性たちが使用した、武具・衣装・文書・書画など多岐にわたっており、当時の大名家の文化や歴史、時代背景などを知る上で重要なものとなっております。これらのコレクションは、歴史常設展示のほか、企画展やテーマ展で御覧いただけます。

 そのいくつかを御紹介しましょう。甲冑の展示は、まるで武将が着用しているかのような演出で迫力があると好評を得ております。NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(2014年)の黒田官兵衛孝高(如水)所用の「銀白檀塗合子形兜」の実物を所蔵していることには皆さん驚かれます。南部家が所蔵することとなったいきさつも興味深いものがあります。「盛岡藩家老席雑書」は、265年続く江戸時代の中で、約200年分の盛岡藩の歴史が分かる貴重な文書で、翻刻出版事業も全50巻をもって完了する予定です。「盛岡城模型」は、石垣のみ現存する盛岡城跡を散策する際に往時が偲ばれると人気です。

 歴史展示以外にも、盛岡を代表する祭りである「チャグチャグ馬コ」、「盛岡さんさ踊り」や「盛岡秋まつりの山車」の常設展示もあり、地域に息づく伝統文化の魅力を体感できます。

 また、 もりおか歴史文化館は、まちなか観光の拠点としての役割を担っております。館内では、観光情報の提供や物産の紹介・販売を行うほか、休憩スペースもありますので、ここを拠点に、盛岡城跡を散策したり、まちの各所に残る城下町の風情を楽しんだりと、市内の観光スポットを巡っていただけます。

 このように、もりおか歴史文化館は、歴史に興味のある方はもとより、どなたにでも楽しんでいただける施設となっております。多くの皆様の御来館を心からお待ち申し上げております。

 

令和4年4月1日

もりおか歴史文化館館長 柴田 道明